ヨルノウタ

 カレはアタシの顔をじっと見ながら、優しく頭を撫でてくれる。
 ただ静かにそっと、大きな手で撫でてくれる。あったかくって、気持ちいい。
 アタシはカレの宝物になったような気分になって、嬉しくなる。
 とっても安心して眠ることができるの。
 ヒトリで眠るのは苦手。


 カレの腕を抱き枕のようにして抱きしめて眠るのも好き。
 しがみつくようにしてギュッとしながら、カレの手を握る。
 指を絡ませて、隙間なんかどこにもないような気分になって、嬉しくなる。
 とっても心地よく眠ることができるの。
 フタリで眠るのがいい。



 ヒトリだと冷たくて長い夜が訪れる。
 孤独な闇が部屋に押し寄せてきて、時計の秒針が部屋に響きはじめる。
 アタシは耳を塞いで、別の何かで覆い隠したくて、引っ張り出すように歌うの。
 小さな声で、アタシだけに届く歌をこっそりと歌う。
 ひとりぼっちだなんて、誰にも気づかれたりしないように。



 カレに背中から抱きしめられながら、カレの鼓動を感じる。
 目を覚ました時、後ろから聞こえていたハズの彼の寝息が聞こえない。
 包まれるような温もりはどこかへ消えて、アタシの気分は最悪になっていく。
 とっても素敵な夢が見ていたのに。
 目覚めるとヒトリ。


 カレはアタシの顔を触れるように撫でていた。長いきれいな指をしている。
 耳たぶを玩ばれて、何だかとってもくすぐったかった。
 手の甲にキスをされると、お姫様のような気分になって、嬉しくなる。
 とっても素敵な夜だったの。
 でも、カレはいつの間にかいなくなってた。


 カレに腕枕をしてもらいながら、頭を撫でてとねだった。
 無口なカレは何も答えず、機嫌が悪いのか撫でてくれようとはしなかった。
 アタシは急にな悲しくなって、すすり泣く。
 ゴツゴツとしたカレの指が、アタシの涙を受け止め、拭ってくれたの。
 ついでに悲しみや不安も拭ってくれたおかげで、安心して眠りにつけた。
 なのに、やっぱりカレはいなくなっていた。



 たくさんのおもいが溢れる夜。
 惨めさや寂しさから逃れるように、不釣り合いな陽気な歌を歌う。
 この夜が明けても、同じ夜がやってくる。
 存在するのが辛く思う日も、何処かで幸せ感じる日にも、同じ夜が訪れる。
 テーブルに置かれた紙切れをクシャッと握りしめて、儚い安らぎに縋る。
 疲れ果てて眠りにつくまで、アタシは終わらない歌を歌い続けるのだ。






「ヨルノウタ」
<03.01.03>


長い夜です
時計の秒針でリズムとって
新しい歌を歌います
小さな声で
誰にも届かない歌を
こっそりと歌います


相反するものが
バランスをとり合い
泣きたくても泣かせない
つまらなくても笑わせる
同じこと?
悲しいほどに違う
ただ、バランスをとり合うだけ


ひとりの夜です
幸せを知る裏側が迫っています
幸福の存在が遠ざかる
薄暗い部屋の隅
耐えるように歌い
壊すように歌います


毎日のリズムは
背中を押しています
目の前が崖であっても
目の前にあなたがいても
同じこと
悲しいぐらいに同じ
ただ、背を押すだけ


冷たい夜です
溢れてくるものは
悲しみや不安
惨めさや寂しさ
誰にも聴こえぬように
こっそりと歌います


この夜が明けても
同じ夜がやってくる
辛く思う日も
幸せ感じる日にも
同じ夜がやってくる
疲れて眠りにつくまで
終わらない歌を歌い続けるのです


(詩集「イノセント」より)



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